ギブソンやフェンダーと並び、「第3の王道」と言われる地位を確立したポールリードスミス。
主力製品であるアメリカ製のコアモデルや、手の届きやすい価格を実現したS2とSE。
さらに、1本で100万円を超えるプライベートストックなど幅広いラインナップを誇ります。また、著名ギタリストのモデルを多数制作し、発表される度に話題となっています。そんな演奏性と美しさを兼ね備える、ポールリードスミスの歴史を紹介します。
誕生
きっかけは、「ポール・リードスミス」氏の屋根裏でのギター製作でした。彼は1956年にアメリカのメリーランド州で生まれ、ギター演奏とモノづくりが好きな少年でした。
大学在学中にギター制作を始め、その後楽器店で修理の技術を学び、1975年に修理と制作を手がけるショップを設立しました。ちなみにこの時期は「プリファクトリー」と呼ばれ、彼が初めて作ったギターはギブソンレスポールに影響を受けたギターでした。
その後ポール氏は20代で各地のライブ会場に足を運び、楽屋に潜り込み自作のギターを売り込んでいました。その甲斐あって、徐々に彼のギターが使用されていきました。中でも彼のギターをいち早く評価したのはカルロスサンタナであり、彼は1981年頃からPRSを愛用しています。
また、ギブソン黄金期を築いたテッドマッカーティー氏に10年以上にわたりアドバイスを受けていました。尚、この時から現在の価格で50万円前後の価格帯のギターを制作していたらしく高級志向だった事が伺えます。
発展
そして1985年に15人程の人数でブランドを設立し、そこで現在の主力商品である「カスタム24」を発表しました。このモデルは、当時世界的なギターメーカーだったギブソンをベースとしながら、フェンダーの要素を取り入れたギターでした。
またギブソンやフェンダーとの違いとして、ポール氏がギタリストであり、見た目の美しさと実用性のバランスを重視していた事にあります。カスタム24は毎年マイナーチェンジをしているモデルですが、初代のモデルは発売から20年以上経過した現在では高値で取引されています。
90年代に入り、ボディーとネックをネジで接着するボルトオンという構造を取り入れ、よりフェンダーの仕様に近づけたモデルとしてCEを発表します。
左が従来のセットネックと呼ばれる接着剤でくっつける手法。右がCEシリーズで採用されたボルトオンと呼ばれる仕様で、ネジで留める。
このモデルは、それまでのギブソンの様な太く甘い音色だけでなくシャープで切れのある音色を得意としたモデルの為、より幅広い層に向けたギターブランドとなりました。
93年にはカスタム22を発表します。このモデルはカスタム24よりも太く甘いサウンドの為、ブルースやジャズなどのギタリストから人気があります。また、ボディが空洞化されたホローボディーといったラインナップもあります。
94年にはポール氏が長年ギター製作の面で影響を受け師事していた、テッドマッカーティー氏の名前を取り入れマッカーティーシリーズを発表します。
それまでは現代的な要素の強かったPRSの中でこのシリーズは、ヴィンテージギブソンのサウンドや演奏性を意識したモデルとなっています。そして95年には、長年PRSを愛用していたカルロスサンタナのモデルを発表します。
このモデルは現在でも生産されている人気のモデルになります。そして97年には、PRSの最高峰にあたるプライベートストックが発足します。この部門はオーダーメイドなどに対応しており、中には1本で100万円を超えるモデルも存在します。さらにプライベートストックのクオリティーをレギュラーラインに落とし込んだ、モダンイーグルもあります。
魅力
85年の創立以来順調に成長していったPRSですが、特筆すべき点としてギブソンやフェンダーの様に人気の低迷を経験していない事が挙げられます。これは創業者であるポール氏の努力はもちろんですが、様々なジャンルのギタリストに愛用されている事が挙げられます。
設立当初は主にジャズやブルース系のギタリスト達に愛用されました。代表的なギタリストは、ジョン・マクラフリンやアル・ディメオラなどが挙げられます。
90年代以降はオルタナティブやヘヴィメタル系の、マーク・トレモンティやオリアンティといったギタリスト達にも使用されています。
ウンド面については、レスポールの太く伸びのある音色とストラトキャスターの歯切れのある音に1本で対応し、アンプやエフェクターで音を作りやすいといったメリットがあります。またパーツについても自社で開発しており、このような細部に至るこだわりが演奏時の快適性や個体差の少なさに影響しています。
こだわり
PRSは、同じモデルであっても年代によって細かく使用が異なっています。これは、ポール氏が細部にまでこだわり常に最高のギターを作ろうとする姿勢に他なりません。アメリカ東海岸のメリーランド州に「PRSファクトリー」と呼ばれる工場を持ち、大半のパーツを自社で製造しています。ギターの心臓部と言われるピックアップについても、ヴィンテージタイプから汎用性のあるモダンなスペックなどかなりの種類があります。
さらに木材については、工場内に「ウッドライブラリー」という専用のスペースが設けられている程です。ここではバイヤーが膨大な量の中から、1ダース程に厳選した木材が保管されています。さらに、木材を乾燥させる為の部屋は数種類あります。また公式サイトにも、「いい木材が製品の質をそのまま左右する」と記載がある程木材に対してこだわりがあります。
その後の木材の加工については、CNCルーターと呼ばれるコンピューター制御された切断機を使用している為、高い品質を保ちながら量産する事が可能になりました。
そこで加工された木材を、「サンディング」と呼ばれる作業でやすりをかけて形を整えます。この「サンディング」はPRSファクトリー内で最もスタッフが多く、木材担当者は最初にサンディングを徹底的に覚えることからスタートしています。
そして加工された木材同士の接着を行うのですが、モデルによって角度が正確に決められている為、この作業は限られた熟練の職人が行っています。その後塗装を経て最終的なチェックをし出荷されますが、その段階でどこかに欠陥がある場合はやり直しを行うなど徹底した生産体制を確立しています。
SEの誕生から現在
今まで紹介したモデルは、プロミュージシャン向けであり一般のユーザーにはまだPRSは敷居の高いブランドでした。そんな中カルロスサンタナ氏から、「学生でも購入できる価格でPRSを作れないか」と提案され2001年にSEシリーズが発売されます。SEとは「スチューデントエディション」の頭文字であり、生産国をアジアに変更しコストを抑えながらもPRSの魅力を味わえるモデルになりました。
当初は韓国の「ワールドミュージックインストルメンツ」という、様々なメーカーの委託制作を行っている工場にて制作されていました。その後2019年頃からインドネシアの工場での制作になり、委託ではなくPRSだけの製造工程などを取り入れ品質の向上を計りました。さらに、アメリカから定期的にスタッフを派遣し品質管理や技術指導なども行っています。その為単なる廉価版といった位置付けではなく、SEにしかないモデルも発売され初めてのギターにPRSを選ぶといった事も可能になりました。
2018年には現代の3大ギタリストと呼ばれるジョンメイヤー氏のモデルが発表され、話題となりました。シルバースカイと名付けられたこのモデルは、かねてから親交のあったジョンとポールが2年の歳月をかけ作成したモデルになり、見た目も今までとは違うストラトキャスタータイプでした。
開発にあたりジョンの愛用しているビンテージストラトキャスターを細部まで研究し、その構造を元に開発されさらにPRSの現代的な要素をプラスしたギターとなっています。ギターそのものの完成度も高く、アメリカの楽器通販サイトリバーブトッドコムでは、最も売れたUSA製のギターとなっています。さらに2021年にはシルバースカイがSEシリーズでも生産され、価格だけでなくスペックの面でもより万人受けする仕様となっています。
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