フェンダーテレキャスターの歴史

ストラトキャスターやレスポールと並ぶ定番機種であり、テレキャスの愛称で親しまれているテレキャスター。シンプルな構造でありながら、発売から70年以上たった今でも生産されています。今回はそんなテレキャスターの歴史を紹介します。

誕生

現在では世界的なギターメーカーであるフェンダーですが、設立当初は「スティールギター」と呼ばれる、専用のバーでスライドさせて演奏する楽器を制作していました。これがカントリーミュージシャンの間で評判となり、本格的なエレクトリックギターの制作に乗り出します。

その後、テレキャスターは1949年にレオフェンダーによって開発されました。現在の名称である「テレキャスター」になるまでは紆余曲折があり、開発当初は「エスクワイヤー」、その後「ブロードキャスター」と改められました。

レオ・フェンダーのネーミングセンス | walkin' on
創業者であるレオフェンダー

ですが別会社であるグレッチのスネアドラムが同じ名称で商標登録をしていた為、1951年に「テレキャスター」に変更されました。因みに「テレキャスター」の名前の由来ですが、当時最新の電子機器だったテレビジョンから来ているという説があります。

テレキャスターといえば現在では定番機種ですが、発売当時は特殊なギターでした。なぜなら1950代のギターといえば、ギブソンやグレッチなどに代表されるホロウボディーと呼ばれるタイプが一般的でした。

ホローボディーの代表的なギターであるギブソンES175

このギターはボディー内部が空洞で表面が緩やかにアーチ状になっていました。また、組み立てにはニカワと呼ばれる天然の接着剤が使用されていました。このタイプのギターは、ジャズやブルースに適した太く伸びのある音色になります。ですが、音量を上げ過ぎるとハウリングと呼ばれる状態となり、演奏に支障をきたしてしまいます。また、製造工程が複雑なため価格も高額になるといったデメリットもありました。

それに対して、テレキャスターはソリッドボディーと呼ばれ空洞がありません。表面はフラットな状態で、組み立てにはネジを使用していました。これにより作業工程を減らし、効率良く製造することが可能となりました。

さらに、ハウリングも起こらず、修理もしやすいといったメリットもあります。サウンドに関してはギブソンとは対照的に固く輪郭のハッキリした音になります。このソリッドギターといった発想はこれ以降ギブソンなど他のギターメーカーが取り入れ、現在では定番の方法となっています。

ですが、当時フェンダーは新興メーカーだった事もあり、ギター関係者からは酷評されてしまいました。現在でもアメリカのカリフォルニアで行われているナムショーに出品した際にも、「厚板」や「雪かきシャベル」など散々な評価でした。なぜレオフェンダーがこのようなギターを考案したのかは諸説あります。一説には彼はラジオの修理を行っている技術者だった為、工業製品の製造技術を応用したと言われています。また、彼はギターは全く弾けなかった為、従来の常識に囚われない発想ができたと言われています。

ソリッドとフルアコースティックさらにセミアコースティックそれぞの比較動画

発売から

発売当初は主にカントリー系ミュージシャンに使用されました。これは以前制作していたスティールギターの影響や、テレキャスターの明るく歯切れの良い音色が影響しています。ギタリストでは「ジェームズ・バートン」が最も有名で「ミスター・テレキャスター」と呼ばれています。

ジェームズ・バートンは1939年アメリカルイジアナ州出身のギタリストで、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」にも選ばれるなどの実力者です。10代の頃からギタリストとして活動を始め、「キング・オブ・ロックンロール」と呼ばれるエルビス・プレスリーのバンドでの演奏が有名です。

また彼は53年製のテレキャスターをメインに使用していましたが、70年頃に限定で生産されたペイズリー柄のテレキャスターも使用していました。現在フェンダーから彼のモデルである、「ジェイムズバートンテレキャスターレッドペイズリーフレイム」が発売されています。

また、ジミー・ペイジもレスポールのイメージがありますが、レッドツェッペリンのデビュー当時テレキャスターを使用していました。自らペイントを施した独特なデザインのモデルで、丸いミラーを貼っていた事から、「ミラーギター」や「ドラゴンギター」と呼ばれました。

現在はフェンダーから「ジミーペイジテレキャスター」として発売されています。因みに、彼のテレキャスターはジェフ・ベックから譲り受けたと言われています。ジェフ・ベックとはかつてヤードバーズで一緒に活動していたことがあり、彼らが加入する前のギタリストはエリック・クラプトンでした。このことから現在ではジミーペイジ、ジェフベック、エリッククラプトンは3大ギタリストと呼ばれています。

その後、テレキャスターの後続機種に当たるストラトキャスターが1954年に発売され、58年にはジャズマスターが発売されました。50年代後半にはソリッドギターの需要が高まっていた事もあり、ギブソンでもソリッドギターである、レスポールを1952年に発売していました。

また、フェンダーではギター以外にもベースやアンプなども手がけており、ギブソンと肩を並べるほどの楽器メーカーとなっていました。

人気の下落

順調に業績を伸ばしていたフェンダーですが、60年代後半に入り人気が低下してしまいます。きっかけは、65年に創業者であるレオフェンダーが、会社を世界的なメディアグループであるCBSに売却したことです。理由としては会社の規模が大きくなり過ぎたことや、レオの病気などが原因と言われています。

この体制はCBS時代と呼ばれ、1985年にフェンダー社が権利を買い戻すまで続きました。売却後もレオは技術顧問として在籍していましたが、わずか数年で退社しています。自身の開発した新技術が取り入れられなかった事などが原因と言われています。

スターキャスター新体制となったフェンダーからは、今までにはなかったタイプのギターがいくつか発売されました。代表的な機種は「コロナド」や「スターキャスター」などが挙げられます。

この2機種は、内部が空洞になっているというギブソンを意識したギターでした。このようなギターを制作した背景には、ジャガーやジャズマスターの売上低迷などが挙げられます。

左:ジャズマスター 右:ジャガー

その影響もあり、テレキャスターも1968年には空洞のある機種である「テレキャスターシンライン」が発表されました。

見た目としては、サウンドホールが特徴的です。これにより、テレキャスターのシャープな音がマイルドになります。また、ギターそのものが軽量化されるといったメリットもあります。後にこのモデルはフェンダー以外のメーカーでも生産される人気モデルとなりました。また、バンドのボーカルが使用しているイメージもあります。

70年代に入ると、ギブソンのような太く伸びのある音の出るテレキャスターが発売されます。これらはデラックスやカスタムと呼ばれ、現在でも生産されている人気機種です。

このようなモデルが制作された背景にはギブソン社で開発に携わっていた「セス・ラバー」の影響があると言われています。また、限定ですがオールローズテレキャスターがあります、これはローズウッドと呼ばれる木材のみで作られたギターで、ビートルズのジョージハリスンが使用していました。ですが非常に重く、あまり人気がなかったようです。近年は復刻版が発売されており、こちらはボディーの1部をくり抜いて軽量化したモデルです。

70年代後半にはハードロックの影響でストラトキャスターは人気でしたが、その他の機種は人気が低迷し、75年にはジャガー、80年にはジャズマスターが生産終了となってしまいました。現在では大量生産による品質低下などが原因と言われています。

復活

80年代になっても人気が低迷していたフェンダーですが、ヤマハUSAから移籍した「ビル・シュルツ」によって人気が復活していきます。彼はフェンダー社で数多くの改革を行い、現在では「フェンダーの救世主」と呼ばれています。代表的な例は、かつてレオフェンダーが率いていた頃のギターの再現。より多くの年齢層にフェンダーを広める為、「フェンダージャパン」の設立などがあります。中でも最大の功績は「カスタムショップ」の設立でした。

この部門は、フェンダー社で最もグレードの高いギターを制作しています。最近では、2021年にバイオリンの名機「ストラトヴァリウス」をモデルにしたテレキャスターが発表され話題になりました。「バイオリンマスターテレキャスター」と名付けれらたこのギターは、世界的に有名なヴァイオリニスト「ジョシュア・ベル」が所有する1713年製ヴァイオリン”ストラディヴァリウスを参考に制作され、世界60本の限定生産となっています。

テレキャスターの歴史を誕生から現在まで紹介しました。ご覧頂きありがとうございました。

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